AI(人工知能)が「知的」にふるまっているように見えるのは、学習(Learning)と推論(Reasoning)という2つの核となる能力を持っているからです。
このページでは、AIがどのように学習し、そしてどのように推論して判断を下すのかを、できるだけわかりやすく解説します。
1. 学習とは?
AIの学習とは、データからパターンやルールを見つけ出し、それをもとに将来の判断や予測ができるようになるプロセスです。人間が「たくさんの例を見て覚える」ことに近い考え方です。
AIの学習にはいくつかの方法がありますが、いずれも機械学習(Machine Learning)という大きな枠組みに含まれます。
学習技術の主な分類:
教師あり学習(Supervised Learning):正解付きのデータから学ぶ
教師なし学習(Unsupervised Learning):正解なしのデータから構造を発見
強化学習(Reinforcement Learning):行動と報酬を通じて最適化
これらの技術は、画像認識、音声認識、自然言語処理など、さまざまな分野で活用されています。
2. 推論とは?
AIの推論とは、学習によって得られた知識(モデル)を用いて、新しい状況や入力に対して判断を下すプロセスです。
たとえば、「猫の特徴を学んだAI」が初めて見る画像を見て「これは猫っぽい」と判断するのは、まさに推論の働きです。
推論にもいくつかの技術的アプローチがあります:
推論技術の主な分類:
ルールベース推論(Rule-based Reasoning):あらかじめ定義されたルールに従って判断
確率的推論(Probabilistic Reasoning):不確実性のある状況での予測や判断(例:ベイズ推論)
3. モデルとは何か?
学習と推論の中核には「モデル」という考え方があります。
モデルとは、データの特徴と結果の関係性を表現する仕組みであり、AIが「知識を持つ」ときの入れ物のような存在です。モデルの中身は、数式、ルール、重み付きネットワークなど、多様な形をとります。
学習:モデルを作る(知識の獲得)
推論:モデルを使う(知識の活用)
また、モデルは単に「予測する」ための仕組みというだけでなく、「なぜそう判断したのかを説明できるか(説明可能性)」や、「未知のデータにどこまで対応できるか(汎用性)」といった観点も含まれます。これらはAIを実社会で活用するうえで非常に重要な要素です。
4. 現代AIにおける学習と推論の関係:学習と推論が一体化したディープラーニング
ディープラーニング(Deep Learning)は、機械学習の一種で、特に「多層のニューラルネットワーク」を用いて、データの特徴を自動的に抽出し、判断・予測に結びつける技術です。
従来の機械学習では、人間が特徴量(たとえば画像の輪郭や色など)をあらかじめ定義する必要がありましたが、ディープラーニングではこの特徴抽出すらAI自身が行うことができます。
画像認識ではCNN(畳み込みニューラルネットワーク)、音声認識や言語処理ではRNN(再帰型ネットワーク)やTransformerといった構造が用いられています。
一方で、ディープラーニングにはいくつかの課題もあります。まず、学習には大量のデータと高い計算資源が必要となるため、トレーニングには時間とコストがかかります。また、内部構造が非常に複雑なため、「なぜそのような判断をしたのか」がわかりにくく、説明可能性に乏しいという特徴もあります。
それでもなお、ディープラーニングが他の手法に比べて注目される理由は、複雑で非線形なデータ構造にも対応できる柔軟性と、画像・音声・テキストといった多様な情報を一つのモデルで処理できる汎用性の高さにあります。
ディープラーニングは、教師あり学習の「入力と正解のペアからパターンを学ぶ」性質を継承しており、ラベル付きデータによる分類や予測に強みを発揮します。また、教師なし学習のようにデータの特徴構造を自動的に見つけ出す働きも併せ持ち、入力の構造を階層的に抽象化する点ではその発展形と見ることができます。さらに、強化学習と組み合わせることで、環境との相互作用を通じた判断や最適化にも適応可能です。
推論面では、明示的なルールを用いたルールベース推論や、確率的な判断を行う確率的推論とは異なり、学習されたパラメータ(重み)に基づいて出力が生成される「構造的推論」を行います。これにより、ルールや確率分布を事前に設計しなくても、データから最適な判断構造を獲得できるのがディープラーニングの特長です。
ディープラーニングのような技術では、学習によって作られたモデル(=重みや接続の構造そのもの)が、そのまま推論のときにも使われます。 つまり、学習の結果得られた“計算の仕方”を、そのまま新しい入力に適用するだけでAIは判断を下せるのです。モデルを切り替えたり、別の論理を走らせたりする必要がなく、学習と推論が一続きの仕組みの中で完結しています。
このような構造が成立するためには、学習段階で得られる誤差(AIの予測と正解との差)を効率よくフィードバックし、ネットワーク全体の重みを最適化していく必要があります。
そこで使われるのが「バックプロパゲーション(誤差逆伝播法)」という仕組みです。これは、出力から入力方向へとネットワークをさかのぼりながら、各接続の重みを調整する方法で、ディープラーニングの学習を可能にする中心的なアルゴリズムです。
このように、学習と推論は構造的に一体となっており、切り離して考えることが難しくなっています。
「猫らしさ」を学んだモデル → 新しい猫画像にも「猫」と判断
推論の精度が低ければ、再度学習(=再トレーニング)で改善
このサイクルを繰り返すことで、AIは現実世界での応用力を高めていきます。
5.まとめ
AIの中核には、「データから知識を学ぶ力(学習)」と「学んだ知識で判断する力(推論)」があります。
それぞれの方法には得意・不得意がありますが、近年のAIではこの2つが深く結びつき、私たちの生活の中で多様なかたちで応用されています。
次回は、こうしたAIのしくみが実際にどのように社会や日常に使われているのかを見ていきましょう。