私たちが今使っているAIは、突如現れた未来技術ではなく、70年以上の歴史と試行錯誤の積み重ねの上にあります。このページでは、AIの進化の歩みを、重要人物・技術・転換点を中心にたどっていきます。
1. AIの夢はどこから始まった?
AIの出発点とされるのは、イギリスの数学者 Alan Turing(アラン・チューリング)です。彼は1947年に「機械は学習できるか?」という問いを立て、1950年の論文『Computing Machinery and Intelligence』で次のように問いかけました。
“Can machines think?”(機械は考えることができるのか?)
この問いから発展したのが、Turing Test(チューリングテスト)です。人間と機械が会話し、判定者が相手が人か機械か区別できなければ、その機械は「知的」と見なせるとされました。この発想は、AIの哲学的出発点であり、今なお知能の定義に関する議論の中心にあります。
2. 第一次AIブーム(1956〜1970年代)
1956年、John McCarthy(ジョン・マッカーシー)らが開催した「ダートマス会議」で、Artificial Intelligence(人工知能)という言葉が初めて公式に使われました。この会議にはMarvin Minsky、Allen Newell、Herbert Simonなど、のちのAI研究の草創期を築いた研究者たちが参加していました。
この時代のAIは、人間のようにルールや記号(シンボル)を用いて推論を行うことを目指しました。これをシンボリックAIと呼びます。
この流れの中で登場したのが、1966年に開発されたELIZAという対話プログラムです。ELIZAは「うんうん、それでどう思いましたか?」といったカウンセリング風の応答で会話を模倣し、多くの人に「機械が理解している」と錯覚させました。
3. AIの冬(1970年代〜1980年代)
1970年代後半、AIは大きな壁にぶつかります。人間のような柔軟な判断を再現するには、あまりにも多くのルールが必要で、現実世界への応用が困難だったのです。こうして第1のAIの冬(AI Winter)が訪れ、研究資金や関心が大きく失われました。
その後、専門家の知識を「もし〜ならば〜する」というルールで記述し、問題解決を支援する「エキスパートシステム」が出現、一時的に商業利用が進みました。
しかし知識の記述や更新の困難さから再び限界が露呈し、1980年代末には第2のAIの冬に突入しました。
4. 第二次AIブーム:データから学ぶAIへ(1990年代〜)
1990年代に入ると、AIはルールを教えるのではなく、データから学ぶ方向へシフトしていきます。これが機械学習(Machine Learning)です。
代表的な手法:
- Support Vector Machine(サポートベクターマシン):データを最適に分類する境界線を学習
- Decision Tree(決定木):データをはい/いいえで分岐して予測
こうした手法は、音声認識、金融、医療、広告最適化など多くの分野に広がりました。
5. 第三次AIブーム:深層学習とILSVRC2012(2010年代)
2012年、画像認識の国際大会ILSVRC2012(ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge)で、トロント大学のチームがAlexNetというモデルで従来の誤認率26%を15%に大幅改善しました。このとき用いられた技術がDeep Learning(深層学習)です。
Deep Learningの根本技術はすでに20世紀に考案されていましたが、2006年にGeoffrey Hinton(ジェフリー・ヒントン)らが技術の大幅な安定化に成功。その後2012年のILSVRで画期的な実用性が注目を集め、第三次AIブームに突入していきます。
Godfathers of AI: 人工知能の革新を導いた3人の研究者。2018年に3人でチューリング賞を共同受賞。
名前
所属
活動
トロント大学 → Google→独立
誤差逆伝播法の普及、AlexNet(2012年)の開発
Meta(Facebook)
畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の開発
モントリオール大学、MILA
生成モデル(VAEなど)、自然言語処理への深層学習応用
6. 現在と未来:生成AIとLLMの時代へ(2020年代〜)
さて、ここまでAIの歴史を紐解いてきましたが、どうでしたか?随分長い歴史があったことに驚かれたのではないでしょうか。
Apple IIが登場したのが1977年、Mackintoshが登場したのが1984年、Windows PCの普及が1985年以降、iPhoneの発売は2007年です。我々の生活にコンピューターやスマートフォンが普及して生活が激変していく中、その裏では「機械は考えることができるのか?」という科学的な問いに端を発した人工知能研究が着実に進んできていたというわけです。
2020年代に入り、Generative AI(生成AI)が一気に注目を集めるようになりました。文章や画像、音声、さらには動画までも、AIが生成できる技術が一般にも広まりつつあります。中でも大規模言語モデル(LLM)は、対話、翻訳、要約、プログラミング支援など、多くの知的作業を単一のモデルで実行できる点で画期的です。
ChatGPT、Claude、Gemini などに代表されるLLMは、かつては分野ごとに分かれていたAIタスクをまたいでこなす柔軟性を持ち、AIの汎用性を一段と高めています。こうしたモデルは、これまでのAIを単なる「ツール」から、学習や創作の「協働者」へと進化させつつあります。
生成AIの普及・発展は、私たちの日常生活、教育、創造的な表現活動の在り方に急速な変化をもたらしはじめています。このサイトは、こうした変化に対して、知識を得たうえで楽しんで向き合っていただきたいという想いで作成しています。
きっと数十年、数百年後、この時代は大きな転換点として記録されることでしょう。皆でともに学びながら、この激動の時代を乗り越えていきましょう。
年表で見るAIの代表的な出来事
- 1950年 – Alan Turing が Turing Test を提案
- 1956年 – Dartmouth会議で「Artificial Intelligence(人工知能)」命名
- 1966年 – ELIZA 公開
- 1970年代 – 第1のAI冬
- 1980年代 – エキスパートシステム流行 → 第2のAI冬
- 1990年代 – 機械学習の普及(SVM・決定木)
- 2006年 – HintonらがDeep Learningの再評価を提唱
- 2012年 – ILSVRCでAlexNetが大勝
- 2018年 – Godfathers of AI がチューリング賞受賞
- 2022年 – ChatGPT公開
- 2024年〜 – マルチモーダルAI(画像・音声・動画)へ展開中